ある対話

自分の物語が定義できない。
そのことに不安を覚えるあなたは
過去の恋愛や、学生時代の創作物を
紐で繋ぎあわせ、ネックレスとして着飾り
それを盾にして身を守っているね。


自由から自由を得る能力を失ったあなたは
現状と名付けた被害妄想と、先のネックレス
双方に縛られて、動けないふりをしているね。


いいえお姫さま。
私はちっぽけな人間でありながら
そのことを認めていないのです。
私を縛りつけているのは
ただ、その認識ひとつでございます。


あら、私にとってはその
自分がちっぽけだという考えが
とてもバカらしいものに思えるわ。
人はそれぞれ違って、それぞれに素晴らしいの。
ちっぽけだなんて、あなたの価値基準における比較に過ぎないでしょう?


いいえお姫さま。
私の小ささは、所得の少なさが証明しています。
他人から認められれば所得が増え、即ち大きい人間
認められなければ小さな人間
それが資本主義でございます。


あら、じゃああなたの本質は資本主義に根ざしているの?


いいえ、お姫さま。
しかし、肉体は資本主義に根ざしております。
欲望もまた、同じです。
そして私の精神を生かすのは肉体であり
生きている限り、欲望は耐えず生まれてくるのです。


可哀想な人!
そんなあなたに、愛について教えてあげましょう。
大きな愛は肉体を生かし
そして、愛は何にも勝る欲望なのです。
愛しなさい。可哀想な人。


わかりました、お姫さま。
しかし私のような小さい人間にとって
愛は誠に得難いものです。
愛すべき何かが見つかるまでの間
しばし、過去の思い出に浸っていてもよろしいですか?


そしてあなたは繰り返すのね。
いつかのような恋愛を。
そしてはじまるのは、まるで進歩のない、繰り返しの日々。
夢や希望を失っていないというポーズだけで
輝いて見えるのは、若いうちだけなのよ。


お姫さま、お言葉ですが
先の発言との間に矛盾が見られます。
あなたは愛を求めろと言い
そして愛する私を否定なさいます。
真実は何処にあるのですか?


問題は、ただひとつ
あなたが決断していないことよ。
そして、決断を拒否することそのものが
また決断であることに、気づいていないこと。


ああ、腹立たしい!


私は、あなたのようにならないために
行動しつづけることにしましょう。
たとえ周りの人間に、笑われようとも
バカにされようとも
お姫さまの振りを、しつづけることにしましょう。


気づかない振りを
しつづけることにしましょう。