引用

あるいは彼女は十八か十九になるまでにはごく普通の女の子に変わっているかもしれない。
そういう例を僕は幾つか見ている。
十三か十四の透き通るように美しく鋭い少女が
思春期の階段を上るにつれてすこしずつその輝きを失っていく。
手を触れただけで切れてしまいそうな鋭さが鈍化していく。
そして「綺麗ではあるけれど、それほど印象的ともいえない」娘になる。
でも本人はそれはそれで幸せそうに見える。


彼女がそのどちらの成長過程を経ていくことになるのか、もちろん僕には見当もつかなかった。
奇妙なことに人間にはそれぞれにピークというものがある。
そこを登ってしまえば、あとは下りるしかない。
それはどうしようもないことなのだ。
そしてそのピークが何処にあるのかは誰にもわからない。
まだ大丈夫だろうと思っている、そして突然その分水嶺がやってくる。
誰にもわからない。
あるものは十二歳でピークに達する。
そしてあとはあまりぱっとしない人生を送ることになる。
あるものは死ぬまで上り続ける。
あるものはピークで死ぬ。
多くの詩人や作曲家は疾風のように生きて
あまりにも急激に上りつめたが故に三十に達することなく死んだ。
パブロ・ピカソは八十を過ぎても力強い絵を描き続け、そのまま安らかに死んだ。
こればかりは終わってみなくてはわからないのだ。