バイバイ長い夢

小さなことですぐ傷つく息子は
今日も保育園の玄関で不貞腐れた。
土足で上がったことを注意されただけなのに
僕から目を逸らし、不満気だった。


子供なので気分はころころと変わる。
数分後には、もう元気に遊んでいたのだが
僕はちょっとした悲しみを胸に抱えたまま
会社へと向かう電車に乗りこんだ。
大人になると、生きるのに不便な機能ばかりが残る。


イヤフォンを耳に突っ込んで、音楽を聴きながら吊り革に掴まるのは
もはや日課になりつつある。
再生ボタンを押すと、確か3日前にiPodShuffleに入れた
YUKIのアルバムが再生される。


春のはじめ、窓の風景からも暖かな陽気を感じる。
ラッシュを過ぎて閑散としている車内も、どこか穏やかな空気に包まれている。
揺れる電車、いつものようにバランスを取りながら
少し寝不足の僕は「長い夢」を聴いていた。


すると何故だろう、目頭が熱くなってきた。
僕はいつのまにか、涙をためていた。


たぶん、たくさんのことが絡みあって
出てきてしまった涙なんだと思う。
最近のうまくいかないいろいろや
会社でのちょっとした出来事
YUKIが長男を、幼くして亡くしていること
それから歌詞の内容、ブライトフルなサウンド
春の陽気、電車の揺れ
息つく間もなく過ぎ去ってしまった日々と
そして、これからの日々。


バイバイ 暗い雨
夢で会えたなら 何を話そう
隠れ家に連れていこうかな
バイバイ 暗い雨
夢で会えたなら 何を話そう
気がつけば刺だらけだ
痛いよ
クネクネの道をゆけ
とびうおの群れ飛び越えてすすめ!


泣いた泣いたと口にすることはあれど
本当に目に涙を感じたのは久しぶりだったし
そのおかげかどうかは分からないが
僕はとても晴れ晴れした気持ちで駅を出た。


両腕を大きく、ぐるりと回す。
僕はまだ、進んでゆける。
とびうおの群れを飛び越えて。