FLASHBACK

 ソファーで紅茶を飲みながら、お気に入りの雑誌を眺めてたら、いつのまにか眠っていました。起きたら暗くなっててびっくり。でもそれ以上に驚いたのは、とても静かだったことです。はじめは耳がおかしくなっちゃったのかと思いました。
 窓から外を見ると、オーロラが出ていました。12階にある私の部屋から見入ろせる位置にあったので、オーロラって意外と低いんだなあと、そのときは的外れなことを考えていました。
 もっと近くで見ようと思ってマンションを出たとき、はじめて何かがおかしいことに気づきました。人はひとりもいないし、車は全部止まっています。信号が、時計の針より少し遅いくらいのはやさで切り替わって、ビルに絡みついた針金みたいな何かを照らしています。それから風景が全体的に色あせてるような気がしたんだけど、これは私の気のせいかもしれません。
 友達に電話で連絡をとろうとしたけど、誰にかけても通じません。もしかして、Nくんだったらこういう所にもつながってるかも、と思ったのですが、私の携帯にNくんの番号は入っていませんでした。
 もういちど寝ればなんとかなるとか、そういう感じでもなかったので、少し歩いてみることにしました。私はとても薄着だし、もう冬も近いはずなのに、不思議と寒くはありませんでした。なんだか空飛べそうな気がしたよ。私は、飛べなかったけど。
 こんな所にひょっこり現われるのはやっぱりNくんだって気がして、スタジオに向かってみることにしました。電車は動いてなかったので、レールの上を歩きました。線路ってけっこうゴミが多いんだね。あんなところをちゃんと走ってるんだから、電車ってやっぱりすごい。両手を広げてバランスを取りながら空をみると、電線がたくさんあることに、はじめて気づきました。
 スタジオに、Nくんはいませんでした。でも機材はちゃんとあったよ。Nくんが作った曲を久しぶりに聴きました。するとなんだか、帰れないんじゃないかって気がしてきました。この後なにをすればいいのかも、よく分かりませんでした。
 きっと私、状況に流されることに慣れすぎちゃったんだね。だから大きな力にちょっと押されて、こんな所に来ちゃったんだ。いまこれを録音しながら、とても悲しい気持ちです。幸せがつづかない方法でしか、幸せを手に入れられなかったの。
 でも、もういいです。いままで言葉にして言わなかったけど、Nくんありがとう。
 なぜか割とさみしくないの。私の歌がどこかで聴かれてるって思うからかもしれません。いまここにいる私よりも、Nくんの曲をかきあつめたほうが、たぶんずっと私らしいと思うから。
 それじゃ、バイバイ。