消える言葉-1

「アナライズ」
「ロストが始まったとき、いち早くそれを察知したのは、鳥たちだった。陰る夕日を浴びて、群れからはぐれた一羽のカラスが飛び立つ」
「1980年、ある大物ミュージシャンが殺されたのを聞いて、俺はガッツポーズをした。俺のガールフレンドを奪って逃げた毛むくじゃらの男が、奴の大ファンだったからだ」
「カメラがまわりだし、カラスの後ろをフォローする。悠々と飛行するカラス。そこに理由はない。原因があって、結果があって、それが全て」
「ファンキーなクリスチャンが銃弾を放つ。背中に2発。肩に2発。残りの1発は目的を達成できずに、正体不明の力を残したまま全ての時間に留まる」
「カラスをカメラで追いかけつづけるのは大変だから、私はレンズの右端に、マジック・ペンで鳥のシルエットを書き込む。油性インクの鼻をつく臭い」
スーパーマリオで無限1アップの情報をいち早く仕入れてきたデブの男は、デブだが人気者だった。友人はクッパを焼き殺すために、彼の力を必要とした。デブは自分の優位を保つため、無限1アップの方法を隠しつづけた。画面を覗きみることを、執拗に禁じた。やがて別ルートから届いた情報によって、デブの優位は崩れさる。その20年後、情報は無料になっている」
「鳥は文字通り次元を越え、時間の束縛から解き放たれる。そもそも時間とは何か。目に見えない時間というものを、私たちは何によって定義しているのか」
「老いること、巡ること、伝わること」
「では『時間域』を越えたこの鳥は不滅なのか。そんなことはない。先週、車内で激しいファックをしたとき、夢中で私を撮りつづけた彼が、レンズについた黒い染みをモザイク代わりに利用したから。鳥は生物ではなく、モノでもなく、概念ですらない、フィルターになった」
「またひとつ次元を越えた」
「直後、オーガズムを向かえた私の足が、カメラを蹴りとばした」
「こうして鳥は消滅する」