架空の女性Rについて考察

彼女は親を尊敬している。
そして、信頼している。

疑ったことなど一度もない、と言いたいところだが
どうしても信じられないことが、ひとつだけある。
それは、生まれについて。
彼女の親は、彼女に父親がいないと言う。生物学的に。


彼女には不思議な力がある。
未来を予知する力だ。
しかし彼女は、それが何故なのか、深く考えたことはない。
深く考えるのが恐い。
考えることで、生まれについて、直視しなければならないから。
彼女は、今は亡き、親を疑うのが恐い。


彼女は、他人の死を悲しまない。
親しい知人の死に、慣れてしまったというのが、理由のひとつ。
彼女は親が亡くなってからというもの、たくさんの人の世話になってきたが
そのうちの多くの人間が、命を落とした。
彼女が死を引き寄せているのかもしれないし
死に近い人間を選んでいるのかもしれない。
なぜなのかを確認することはできない。
彼女にとって、意志と予知を区別することは、とても難しいからだ。
どのみち、覆せない未来を前に、意志を持つこと自体が無駄なのだ。
区別する必要すらない。


もうひとつの理由は、予知の訪れかたにある。
彼女がこれから起きることを知るとき
それはすでにそこにあったかのようにやってくる。
『知る』というより『思い出す』に近い。
予知に対する悲しみは
いつも既に過ぎ去ってしまっている。


しかし、彼女も悲しむし、意志だってある。
それに気づいていないだけだ。
たくさんの人の命が、彼女の導きによって消えていったことを
まだ、彼女は、知らない。
自分でも信じられない程の強い意志が
彼女を突き動かしていることに
まだ、彼女は、気づいていない。