ヴィラコスタ2101 -killer-

最近、ヴィラコスタでの依頼が多すぎる。
同じとこで何度も殺しをやるってのは
やべぇなと思っちゃいるんだが
断れない依頼人からしょうがない。


2101号室の女は協力者で
必要な刃物や、緊急用の銃は
そこに置かせてもらっている。
多分ボスの女なんだと思うが
抜群のプロポーションを持ってやがる。


こういう女を見ると、無性にレイプしたくなる。
これはもう性癖だからどうしようもねぇことなんだが
妄想の中で、何度犯したかわからない。


性欲ってのは食欲や睡眠欲と並ぶ三大欲求だ。
自分の性癖について他人に話すと
犯される側の迷惑は考えないのか、とよく聞かれる。
だが、考えて欲しい。
お前は今から眠っちゃならない。
眠ったら友人をひとり殺す、と言われて
絶対に寝ない自信があるか?


ーーー


だからあんたみたいな人間は、死ぬべきなのよ。
人権なんて考え方が、全てを歪めているの。
イレギュラーだから排除されてしかるべき。
この考え方は間違ってる?


女が言う。
標的がホテルに戻ってくるまでに、まだ時間があったので
部屋で待機させてもらってる最中のことだ。


いいや違うね、と俺は言う。
探せば俺くらいに異常な奴なんて、山のようにいる。
同時に、レイプされたくてたまんねぇ女も
同じくらいいるはずだ。
誰かを殺してぇ奴と同じだけ
死にたくてたまんねぇ奴もいる。
そういう人間が集まりゃ、何の問題もねぇってわけだ。
だが集まらない。それは何故か。
くだらねぇ経済と、クソみてぇな社会のせいだ。
そういうめんどくせぇなんやかやのせいで
住む場所は制限され、発言も制限され
俺みたいな少数派が弾劾される。


汚いものを見るような視線を向ける女に
俺は言葉をぶつける。
いいか、俺は異常なわけじゃねぇ。
ただ少数派なだけさ。
なあ、あんただって少数派だろ?
だけど、いいパートナーに出会えた。たまたまな。
運がよかっただけだ。


私だって… と女は言いよどむ。


ーーー


これは俺の論ってわけじゃねぇ。
師匠の受け売りだ。


殺しの仕事はコネクションを繋げるのに最も有用だ。
依頼人は重要人物ばかりだし
依頼を受けている時点で、弱みを握っているも同然だからだ。
師匠くらいに頭がいいと、コネクションを生かして
もうひとつビジネスを立ち上げるくらい簡単な話ってわけだ。


師匠はネットワーク上に、自分の理論に基づくユートピアを作り上げた。
ポマード.netという名のそのサイトが提供するサービスは
至って簡単なシステムで成り立っている。


1 ログインしたユーザーには、欲望送信用のメールアドレスが発行され
る。
2 ユーザーは何か欲望を感じるたびに、そのアドレスに対してメッセージ
を送る。
3 欲望は集計され、やがて結果を元に、20人から成るグループが形
成される。


欲望ってのは例えば
・抱きしめられたい
・今すぐヤりたい
・人をブン殴りたい
・全裸で侮辱されながら痛めつけられたい
・多人数に犯されたい
・みんなでひとりを回したい
・誰でもいいから殺してみたい
・今すぐ死にたい


で、嘘みたいな話なんだが
需要と供給の関係はピタリと一致した。
みんな大枚叩いて、この歪んだ出会いサイトを利用した。


ーーー


2101号室の女も、もしかしたら
ポマード.netの客かもしれない。
っつーか、このホテルに泊まってるような成金たちのなかに
ポマード.netを利用してないやつなんか、いるんだろうか。


忘れちゃなんねぇのは
何かを歪ませることでしか
何かは生まれねぇってことだ。


何かが生まれつづけているってことは
何かが歪みつづけているってことだ。


俺は、これ以上歪められる側でいるのは
まっぴらごめんだ。
思いっきり、歪みを伸ばさせてもらう。
それで他の誰かの何かが歪むんなら
そいつは何かを得てきたか
あるいは、とことん運が悪かったってことになるんだろう。