砂漠の塔

この世界のどこかに広い広い砂漠があって
中央に、高い塔が立っている。
見たことがある人は、たぶん誰もいない。
砂漠の中では方向感覚が狂うから
たどり着くのは難しい。


これはミナコの言ってた話で
でもミナコは馬鹿だから信用できないっていうか
これも例のごとく妄想なんだけど。


砂漠とそうでないところの境目辺り
グランドキャニオンみたいな岩場の一部が扉になっていて
それは砂漠の中央まで続く、トンネルへの入り口だ。


ここまで聞いて私はもう、完璧に妄想だって
気づいた、っていうか既に気づいてはいて
むしろ確信したっていうか、でも中断するのもなんなので
いつも話を聞くだけ聞くようにはしてて
このときも、別のことを考えながら、ぼんやりしていた。


塔の中には、ひとりの老人が暮らしてて
ひとつの書物を、完成に向けて
少しずつ書き進めている。
そこには世界の理みたいなものが書かれていて
それは、悪用しようと思えばひどいことに使えるような理で
でも、私は理ってのがなんなのか、よく分からない。
実は理っていう言葉の意味も、よく分かっていない。


砂漠はもともと砂漠なんかじゃなく
ひとつの都市だった。たとえば東京みたいな。
で、長い年月を掛けて砂が降り積もったので
ビルまで含めてまるごとが、地中に埋まっている。
建物の内部は空洞になっていて、地下道を通じて
そこに入ることができる、という噂もある。
窓の外からは、砂のわずかな隙間を縫って
太陽の光が、無数の筋となってビル内部を照らす。
立ち止まれば光に射貫かれ
歩けば切り刻まれる。
音はなく、時が止まったかのように思える。
あるいは、実際に時が止まっているのかも。


塔は、そんな都市から続いている。
かつての権力の象徴? 富の象徴?
詳しいことは分からないけれど
長い年月によって風化し
さらに砂の化粧を施されたそれは
大自然の作り出した奇跡のような趣。

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ミナコは頭がちょっとおかしい。
あいつ自身は、それを必死で隠そうとしてるから
たとえば仲間で集まったりしたとき
大抵は、高校の頃からの友達5人なんだけど
がんばって普通に振る舞おうとしている。
だから、結果的に口数が少なくて
みんなには、ちょっと暗い人って思われてて
でも、俺はそうじゃないって知ってる。


ミナコのツイッター
こっそりフォローしているからだ。


もちろんツイッターはいろんな使い方をしてる人がいて
あえて妄想をつぶやくとか、別の人を演じるとか
そういう関わり方だってある。
俺もミナコが、そういうふうに
ツイッターを使ってるんだと、思いこんでた。はじめは。


でもある日、見ちまった。
渋谷の真ん中で、大きな交差点の中心で
道路に耳を付けていた。


スタバの2階から、偶然それを目にした俺は
ツイッターを覗いてみた。
ミナコがつぶやいたのは、それから1分後だった。

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ちょっと気になってた女と、2回目のデートでセックスした。
mixiで知り合った馬鹿な女で
でも、めちゃめちゃエロかった。
頭が悪いくせに、頭がいい振りをしようとがんばってて
結果的に、空っぽなことがバレバレっていう
よくある感じの思考回路。


おっぱいがデカかったから
思いっきりぶっかけてやった。
幸せそうな顔してやがった。
あんな気持ち悪いもんを掛けられて、こういう顔ができるのは
客観性に欠ける女ってことの、何よりの証明だ。


体が柔らかくて、膝を頭に付けることができた。
マンコを天井に晒すようにして、足を思いっきり体に押しつけてやると
まるで足と足の間の空間こそがマンコで
頭はクリトリスって感じがしてきた。


まあ、実際にそう見えたかって言うと微妙だけど
そういうふうに考えるってのは、ちょっといいんじゃないかと思った。
いいっていうか、芸術的というか、退廃的というか、厭世的というか。


携帯電話をマンコにつっこんで、女に電話番号を聞いた。
女は辛そうな顔をしながら、しかしその表情の裏でにやけながら
電話番号を教えてくれた。
ちょっと迷ってから、非通知で電話を掛けた。
電話が下品な音でバイブレートすると、女は小さく喘いだ。

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ミナコが死んだって言う電話がリサからかかってきて
ほんとかよ、って思いながらも結構あせって
で、よくよく考えればミナコ自身に電話すればいいんだけど
あせってた私は、ケンちゃんに電話した。


でも、電話は話し中だった。
5分後に電話しなおすと、やっぱり話し中で
10分後も、30分後もやっぱりそうで
そのときにはもう、私の中で
ミナコのことよりもケンちゃんのことのほうが
大問題になっていた。


ケンちゃんは、よく浮気をする。
それでも私がケンちゃんと別れないのは
かっこいいからだ。
思いっきり寄りかかれるし
私の知らない世界を見せてくれるからだ。


だから、ふたりでいるときは
あんま愛とかいう感じじゃなくて
むしろ同居人? 兄弟? それ系なんだけど
友達とみんなで一緒にいたりして、そんときに
私もケンちゃんの隣にいる、みたいなシチュエーションで
マジすごい超すてきな彼氏になる。


結構悪くて周りが逆らえないってのもあって
私は隣にいるだけで、なんか誇らしい。
だから、浮気もある程度許容してるけど
本命が私以外になっちゃったら、ちょっといやだって思う。


ってか、そんなの実は強がりで
本当は、ずっとずっとそばにいてほしい。
でも、そっちの感情を満たすだけなら
相手は誰でもいいような気もしている。


たとえばアキラは、そんなかっこよくなかったし
むしろデートとか他人に見られたくなかったけど
超、幸せだった。
そんなことを思い出したりしていると
ミナコのことはすっかり、忘れてしまった。


すっかり、忘れてしまったのだった。