2つめの荷物「不感症女」

妻と離れ、彼はスクーターで疾走する。


男は、そのスピードが一定以上に達したとき
特殊なドライバーズハイを体験することがあった。


周りのビル群が瞬時にして消え去り
別の風景に姿を変えるのだ。
そこはときにジャングルであり
砂漠であり、大海原であり
宇宙である。


異空間の中、道路だけが残る。
それはうねり、縦に円を描き
コースターの如く、男を誘う。


走るのは気持ちいい。
だが、走れば走るほどに
現実の存在感が希薄になってゆくのも
また、事実であった。


だから男は、ふたつめの荷物が本当にYUKIなのか
それとも、YUKIに見えるだけなのか、判別できない。
頭が混乱しているのだ。


(ひとつめの荷物は
カーネルサンダースだった。
届けた瞬間に頭部が爆発したが
別に怒られはしなかった)


あたし、不感症なの
女は訊いてもいないのに言った。
なんでそんなことを俺に伝える?
そのセリフを俺にどうにかしてほしいのか?


109に掛けられた巨大なポスターには
男がスクーターの後ろに載せている
YUKIの姿が描かれている。
背中に胸の感触を感じながら
男は異空間へと飛ぶ。


追い風を辿れば、雲は晴れていくのよ。
背後から、女が言う。
海は空みたいに青く
空は海みたいに青い。


追い風を辿る以外の道など
はなから残されちゃいない。


(以下、JAMの
BRAND NEW WAVE UPPER GROUNDをBGMに
海の上を疾走し、虹のアーチを超える)

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sshimoda