ハイドラ(Hydra)…金原ひとみ

まずタイトルがいい。
帯に書かれた説明文には「最新恋愛長編」と書かれているのに
題名が「ハイドラ」だもの。


この作者はいつもタイトルがいい。
「アッシュベイビー」「AMEBIC」「オートフィクション」
言葉の選び方が、何かを鋭く突いている。
そのうえ装丁も美しいので、敬虔なキリスト教徒が聖書を持ち歩くように
この本をバッグのなかに忍ばせておきたくなる。


内容について。


この作者は「人」を書く。
人と人との関係性を書いているのではない。
人の感情を書いているのでもなく、シチュエーションを書いているのでもない。
ある「人」を描くために、できるかぎり適切なエピソードを語ろうとしながら
ときに精密さを欠くこともあるし、乱暴になることもあるし
文章に踊らされることだってまだあるけれど
書きたいものの軸がブレることがない。


そもそも何のために小説ってあるんだろう、という問いに対して
単純にエンターテイメントだと答える人もいれば
小説でしか表現できない何かを、表現したいからと答える人もいるでしょう。
ふたつの答えは両方とも正しいと思うけれど
最近は後者を強く感じる物語になかなか出会わなかった。


ハイドラは確実に、小説でしか表現できない「人」を描いている。
 ↑ここまで書いて「ハイドラ評」に飽きましたやめます。



長島有さんが大江健三郎賞だそうです。
「夕子ちゃんの近道」が受賞作。これ、ものすごく好きなんですが
もっと好きなのが「泣かない女はいない」という本。
この2冊は、マイベストオブ長島有です。マイベストオブ21世紀かもしれない。