ep.2 バースデイ・ガール

あなたはきっともう願ってしまったのよ。


ある少女が、20歳の誕生日に
バイト先のオーナーの部屋に食事を届ける。
そこで彼女は
ひとつだけ願いを叶えてあげよう、と言われる。


要約するのなら、そんな話です。
何を願ったのかは明かされません。
でも後日、その願いについてふたつの質問がされるのです。
ひとつは、その願いは叶ったかというもの。
「叶ったのか叶っていないのかは、まだわからない。
 その願いにとって、時間が重要な役割を果たすことになる」
彼女は答えます。


そしてふたつめは
そのお願いをしたことを、後悔していないかというもの。
「人は何を願っても、結局自分以外には慣れないんだと悟った」
それが、彼女の答えなのです。


僕は無類の村上春樹好きですが
この作品が一番好きかも知れません。
ここまでのあらすじでも、人をくった話です。
言うなれば、この話は「どういう願い事をしたか」という話ではなく
「こういう願い事があったらいいな。あるのかもしれないな」
という話なのででしょう。


彼女が、最後質問者に尋ねます。
「あなただったら20歳の誕生日に、何を願った?」
質問者が、もう昔のことなので分からない、というと
彼女が言います。
「あなたはきっともう願ってしまったのよ」


こういう作品の作り方って好き嫌いが激しく別れるでしょうけど
この作品が出している答えは、全ての答えに寛容です。
たぶん、人によって異なるであろう、答えは全て
この質疑に当てはまってしまうのではないでしょうか。


こういう姿勢の作品を、僕はポップだと思います。
コンセプトに対する、他人の目を気にしない決断と
中身に対する、万人に受け入れられる作り。
小説家で、いまそれから最もかけ離れているのが
金原ひとみだと思いますわけわからん。