スクーターで世界を救う

スクーターに乗って
指示通りに、荷物を西へ東へ運ぶ。
俺は荷物の中身をしらねぇし
知る必要もないらしい。


それが三年と二ヶ月続く。
単身赴任ってやつだ。
仕事が終わるまで
嫁のおっぱいを揉むのはお預けらしい。


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妙に給料が上がりはじめたのは
ちょうど一年前の話だ。
妙だと思いながらも
月給が50万を超えたのをきっかけに
マンションを購入した。


もちろん、給料がいいからって
俺はバイク便会社に勤めているにすぎない。
そんな大層なローンは組めねぇから
まあ、一般的な場所にある
普通のマンションを買ったわけだ。


そんでも、嫁は幸せそうだった。
そんな嫁を見て、俺も幸せだった。


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今の雇い主は政府だ。
俺の速さに目をつけた奴がいて
何やら重要なものを
俺を使って運ぶことに決めたって話だ。


俺がスクーターで街を駆けることで
問題が解決するらしい。
何が何だかさっぱり分からねぇが
俺はその仕事を、受けざるを得なかった。
もちろん、マンションのためだ。


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仕事は毎朝、荷物を取りに行くところからはじまる。
朝飯はパンだ。
独身の頃は米を食わなきゃ飯を食った気がしなかったもんだが
パン好きな嫁に合わせているうちに
これが習慣になっちまった。


嫁はたまにベーコンエッグを作ってくれた。
ベーコンがカリカリに焼かれてて
めちゃくちゃうまかった。
たまに自分でも作ってみるが
嫁のように、ベーコンがうまく揚がらない。


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運び物を終えると
受け取った連中はみんな
俺に感謝する。


だが、中身を知らない俺には
全然ピンとこない。
これなら、休みの日に洗い物をしたとき
嫁から言われるありがとうの方が
よっぽど、嬉しかった。


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俺がいないと
日本は大変なことになるらしい。
つまり俺は、世界を救っているわけだ。


世界を救う?
意味わかんねぇよ。


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世界が救われるより先に、俺が救われたい。
夜は、生活のある家に帰りたい。
寝てる嫁の頬を引っ張りたい。
そんでもって、隣に寝転びたい。
意味もなく、腕を体の上に乗っけたい。
嫌がられてもそれを、何度も何度も繰り返したい。
繰り返しながら、眠りにつきたい。
次の日の朝、布団を干すからと
嫌がる俺を叩き起こす嫁を
思い出してはいとおしくて
そのいとおしさを一体
どうすりゃいいのかわかんねぇ。


死ねよ。
みんな死んじまえ。


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(以下、ユニコーンの大迷惑をBGMに
大都市の中をスクーターで疾走する)